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声がひびきあう場を目指して

声がひびきあう場を目指して 声がひびきあう場を目指して

 2011年3月11日、独立節の日に亡くなった祖母のことがひと段落し、大学生になるための準備をしていたとき、いままで体験したことのない揺れに襲われた。しばらくして、揺れがおさまったとき、ぐちゃぐちゃになった部屋のなかでラジオをつけて、震源が東北地方であることを知った。

 この日から日本は「非常時」に突入した。テレビでは、天皇の「おことば」が流れ、今まで背広を着て、国会答弁をしていた政治家たちは作業着に着替え、疲れた顔で被災地や原発の情報を記者会見で発信し、ニュースでは逃げまどう人たちが津波に飲まれていく瞬間がリフレインするように流された。合間には「ポポポポーン」というキャッチフレーズの愛らしいアニメCMが流れ、ニュース映像との差に不気味さを感じていた。

 街に出てみると、食料や燃料を買い求める人たちが行儀よく並んでいて、夜でも明るかった街の灯りは控えめになって、星空がいつもより、少しだけ綺麗に見えた。

 ネットを観てみると、不安からなのかウソかマコトか分からない情報が濁流のように流れ込み、牧歌的だったネットの雰囲気が殺気だったものに変わった。

 その年の4月に開かれた大学の入学式は、例年使っている施設が耐震強度補強のため、中止され、学部ごとに開かれるガイダンス前にこじんまりと行われた。そのとき配布された新入生向けの資料には「東北地方太平洋沖地震で被災されたみなさまへ」という特別な項目があったことを憶えている。

 例年より1週間遅れで授業が始まると、震災と政局の話になった。

震災で身内を亡くした学生たちがいるなかで、政治の世界はすでに「非常時」から「いつもの政局」になっていたからだ。

その一方で、国会前は「原発反対」を叫ぶひとびとであふれかえった。

 私が丸山眞男のことばに出会ったのは、ちょうどそんなときである。

 この本は終戦直後に31歳の若い政治学者だった彼が日本の軍国主義やファシズムを徹底的に分析し、戦争を起こした軍人たちや日本の社会を批判したものだ。

 私が彼のことばと出会ったのは、悲惨なテレビ映像から離れて、国語の便覧を眺めていたときに彼の名前を見かけたことがきっかけだった。終戦直後のことばであるにもかかわらず、彼が「軍国支配者の精神形態」で語っていた「無責任の体系」はまるで「今」を言い表わしているように思った。

 

しかし、彼のことばを今、改めて読むと、また別のことばが出てくる。

「ファシズムの現代的状況」という論文の中にこんな一節がある。

 

 「国民の政治的社会的な自発性を不断に喚起するような仕組と方法がどうしても必要でそのために国民ができるだけ自主的なグループを作って公共の問題を討議する機会を少しでも多く持つことが大事だと思われます。」

 

 私の身のまわりには「国民」ではない人たちがたくさんいる。彼らは彼の語る「グループ」のなかに入ることができるのだろうか。

 3・11から5年が経ち、韓国で朴槿恵大統領が憲法に基づいて罷免されたとき、家族から聴いたかつての民主化運動で政権への抗議のため、自らいのちを絶った人々を思い出し、あのときの想いが報われたと心から喜んだ。

感動に浸っていたとき、ネット中継している画面の向こうから光化門前で人々の歌声が聴こえる。

 

「大韓民国は民主共和国である。

大韓民国のすべての権力は国民から出る。

대한민국은 민주공화국이다.

대한민국의 주권은 국민에게 있고, 모든 권력은 국민으로부터 나온다.」

 

すでに国民ではないし、韓国語もろくに話せないが、あの記憶を受け継いだ私はどうやって語ればいいのか。

 「国民」という大きなことばのまえで、私は「民主主義はだれのものなのか。」と考え込む。国籍やルーツなどさまざまな理由で「声」を出しても、「声」として認められず、自ら「声」を出すことを諦めるひとたちがいる。

 しかし、民主主義を望んでいるのはそんな人たちだ。

 丸山眞男は亡くなる直前、こんなことを語っていたという。

 

「実に優秀なひとがまったく違った分野にいるでしょ。こういう人たちが丸山という人なしにですね、もっと付き合い、もっと話をする機会を持たないのかと。みなさん、横に好きにやっていただきたいと。もったいないですよ。」

 

 もし、彼が生きていたら「国民」という枠に入れない人をどのように考えているかを訊いてみたい。

 私にとっての民主主義とは「国民」を超えて、すべての人の声が響きあうことだから。

 

(金村詩恩)

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