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ヴォネガットみたくなりたい

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本を出してから、いろいろなひとから「どうやったら物書きになれますか?」と相談されるのだが、正直、どう答えていいのか困ってしまう。

 私は大学時代の恩師から「言葉の才能がない。」と言われたぐらいに文章が下手だった。いまでも、「文章を書く能力」を他人から問われたら自信がない。

 それでも、下手なりにブログを週1で書くことを目標にして書きつづけた。

書くことが私にとって、大切なことだと気づいたのは、仕事を辞めて、病気になり、身体が思うように動かず、ベッドの上で書けないことをもどかしいと思ったときだった。

なんとか身体が動けるようになって、「これからどうしよう。」と思っていたとき、ブログを本として出版する話が来た。

この話をいただいたとき、「私でいいんですか?」とかなりビビっていた。

 こういう身の上話を答えとして言ったとしても偉そうでなんか嫌な感じがする。

こんなことで困ったとき、私はあるひとを思い出すのだ。

 カート・ヴォネガットというアメリカの作家がいる。

1922年にドイツ系移民の子として生まれた彼は大学在学中に、アメリカ軍の軍人として、第二次世界大戦の欧州戦線に投入され、ドイツ軍の捕虜となったとき、収容先のドレスデンで味方であるアメリカ軍の爆撃を経験した。戦後は、大学院で人類学を学んでいたが、彼の書いた学位論文は「学術的ではない。」と判断され、学位を取れなかった。そのあと、いくつかの職業を転々としながら、小説を書きはじめ、1950年に作家としデビューしたが、評価されず、執筆を辞めようとしていたとき、とある大学の作家養成プログラムの講師になって、やがて、作品も評価されはじめた。

 そして、1969年に「20世紀アメリカ文学の最高傑作」と言われている『スローターハウス5』でアメリカを代表する作家と言われるようになり、亡くなる直前まで書きつづけた。

 その彼の最後の作品が『国のない男』である。

 このエッセイで印象的なのはアフガニスタンやイラクで戦争を始めたジョージ・ブッシュ.Jr大統領に対して、辛辣で思わず笑ってしまうようなブラックジョークだ。多分、いま、書いたら確実に炎上するんじゃないかと思う。しかも、その標的は大統領だけではなく、アメリカのなかで「強者」とされている存在、すべてに向けられているのだ。

 この本はそんな社会批評だけではない。彼の人生で経験したことから感じた人間観、文学や芸術の話までまったく遠慮なしに書かれている。

 だいたい、こういったものは「今どきの若者は。」と年寄りの説教じみたことを書くものだが、ヴォネガットは「わたしは、わたしの孫の世代と同世代の人々に心から謝りたい。」と書いて、「こういうじいさんになりたい。」と思われてくれる。

 彼がこうも偉ぶらず、強者に対して強かったのは決して順調にいかない人生だったからだろう。戦争に行って捕虜になって、収容先で味方から爆撃を受けたり、学位論文が認められなかったり、作家として認められるのもかなり時間がかかったり・・・・・。

 そんな経験が『国のない男』を生んだのだ。

 「処女作にはその作家のすべてがある。」という言葉があるが、この本を読んでいると「遺作にはその作家の生き様がある。」ということを強く感じる。

 ヴォネガットがもし、私と同じように「どうやったら物書きになれますか?」と訊ねられたらどう答えるだろう。

 きっと彼なら偉ぶらず、ウィットに富んだことを言うんだろうな。

ヴォネガットみたくなりたいものだ。

 

(金村詩恩)

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