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「それ本当なの?」というなかに

「それ本当なの?」というなかに 「それ本当なの?」というなかに

 18歳のとき、浪人生だった私は自宅で祖母とすごすことが多く、よく、彼女の昔話に耳を傾けていた。もともと「おばあちゃんっ子」だったこともあるが、祖母の語る昔話は歴史の教科書に出てくるような人の話やその時代を生きていなければ知らないような話が出てくるので、とても魅力的だった。

 昔話の魅力とは「それ本当なの?」と言いたくなるような話に出会うことだ。一番、びっくりしたのは朝鮮戦争を経験した彼女から「テレビに出てくる金日成は偽物で、本物の金日成は朝鮮動乱で亡くなった。」と真顔で言われたときだった。

 この話を聴いたとき「・・・・・。」となってしまったのは言うまでもないが、こうした「それ本当なの?」という話を聴いていると祖母が生きた激動の時代をどう生きていたのかという「リアルな温度」に触れることができる。

だから、私は昔話が好きなのだ。

 『アルグン川の右岸』は中国とロシアの国境に住むエヴェンキ族のとあるおばあさんの一生をテーマにした小説で、このおばあさんの「語り」を中心に物語が展開していく。
ロシア軍がやって来たので、アルグン川の右岸である中国側に避難したり、日本による侵略戦争がはじまり、男たちが日本軍と戦ったり、狩猟民族であるはずのエヴェンキ族が国の命令で致し方がなく定住を選ぶなど20世紀の激動の時代を過ごしているのだが、それでも淡々と生きている姿が印象的だ。

 私がそのなかで注目したのはときおり、「それ本当なの?」と言いたくなるようなおばあさんの「語り」が出てくることだ。

 とりあえず、この物語は複雑な親戚関係に驚く。あっちの部族へ嫁いだり、こっちから婿を取ったと思ったら、次はロシア人から子どもをもらい受けたり、中国人の捨て子を育てたりしている。それもそれぞれがどういう親戚関係なのかがとても曖昧に語られていて、読んでいる私は訳の分からないことになりつつも、そんな複雑な親戚関係が激動の時代を生きてきた人間としての「リアルな温度」として感じることができた。それはこの主人公のおばあさんの生き方と複雑な親戚関係が妙にマッチしていたからだ。
 語りとは、あくまで、一人称のもので、客観的に本当かどうかは分からないものだ。語り手本人の勝手な勘違いかもしれないし、もしかしたら嘘をついている可能性だってある。しかし、「それ本当なの?」と聴き手が思わず、言いたくなってしまうような「語り」のなかに、語り手の生き方が見えてくる。

 「それ本当なの?」と思わず言ってしまうのは、そのひとの生き方に触れた証なのかもしれない。

 『アルグン川の右岸』を読んでいると私は18歳のときに聴いた祖母の語りを思い出す。それはこの作品の主人公のおばあさんの「語り」から感じたリアルな温度と祖母が語っていたことばのリアルな温度がとても似通っているからだと思う。

 そのリアルさは「それ本当なの?」と聴きたくなるようなものなのだが、そんな話がなければ次は嘘くさく感じてしまう。きっと、ひとがリアルさを感じる瞬間はなにか理路整然としたものに出会うのではなくて、なんか妙に矛盾したものに出会ったときなのだろう。

 

(金村詩恩)

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