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82年生まれ、キム・ジヨンの余韻

82年生まれ、キム・ジヨンの余韻 82年生まれ、キム・ジヨンの余韻

アンニョンハセヨ、インジュです。

以前このブログで「韓国で日本作家の小説はベストセラーの常連。日本でも韓国の小説がベストセラーになる日が来てほしい」と書いたことがありました。
その日がそう遠くなくやって来ました。
「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ著)。この「あんにょんブログ」でも何度も取り上げられている小説ですね。
昨年12月に筑摩書房から日本語訳が発売され、大反響を呼びました。

私も書店に行ったところ売り切れで手に入らずびっくり。入荷されると店頭の一番目立つところにずらりと並べられ、なんだか感慨深いものがありました。

あらすじを改めて紹介。子育て中に精神を病んでしまったキム・ジヨンが、韓国で女性として生まれ常に男性が優先された自身の半生を回顧するというストーリーです。
私自身も妊娠・出産したことで、周囲とこの作品を話題にすることが今でも多くあります。

先日、プレママの友人とは「お腹の子どもが女の子と知った時、この生きづらい世の中を思って心配だった」という話をしました。
男の子が欲しかったわけではありませんが、私もまったく同じことを思っていました。お互い「娘たちが生きやすい社会を作ろう」と決意しました…!

大学院でジェンダーを学ぶ彼女は、キム・ジヨンの小説は「問題がどこにあるか見せてくれる本」、そしてその問いの答えとして「私たちにはことばが必要だ~フェミニストは黙らない」(タバブックス、イ・ミンギョン著)を薦めています。
性差別にどう対峙すれば良いのか教えてくれるこの本に感銘を受けて、韓国の女子大に短期留学して著者にも会ってきたという彼女の行動力には驚くばかりです。

主人公と同世代の私は、日本でも韓国でも周囲の友人たちとはほぼ同じ意見で「女性差別をなくそう」といった話になりがちです。
そうした中で前回、50代の女性の意見を聞く機会があり、何だかとっても新鮮でした。
彼女はキム・ジヨンについて「文句ばかり言っていて嫌だ」と言います。「自分の環境の中で日々を楽しむ努力をすればいいのに」と。
そして「主人公が子どもを愛していないように見えるのが気になる。子育ては子どもを一人前に育てて社会に送り出す尊い仕事なのだから、もっと自信持ってほしい」と述べていました。
この手の話は慎重になりやすいのですが…(国会議員あたりでは言い方によって失言になりそうな気も)
だからこそ真正面から言ってもらう機会があまりなく、その言葉に何だか救われる思いでした。
7カ月になる娘の夜泣きにへとへとして、一日中抱っこで全身バキバキで、そんな時間はムダじゃないよね、と。

この女性の意見に対して「子どもへの愛情とは別」「今の世代の女性は育児だけで承認欲求は満たされない」など反論する人もいましたが、同じ世代の人たちとの中では出ない意見で興味深かったです。

そしてどうしても「女VS男」の構図になってしまうこの本。

以前「あんにょんブック」で金村詩恩氏も指摘していましたが、そのせいで手にとりたがらない男性が多いのが残念。
金村氏とも先日この本について話したのですが、その高い文学性についてまた違った見方を発見することができました。

読むと誰かと話したくなる、そんな力を持つ小説だと改めて感じます。
韓国の小説でこうやって周囲の人々と意見交換ができるなんてうれしいともう一度しみじみ。
秋には韓国で映画(チョン・ユミとコン・ユが主演)が公開予定で、また大きな話題になりそうです。

ちなみに著者のチョ・ナムジュさん、2月に続いて今夏に再来日する予定とのことなので、関西の皆さんはぜひ!

8月31日に京都の同志社大学がトークイベント『韓国文学トークイベント チョ・ナムジュ×斎藤真理子』
イベントは事前申込が必要で応募多数の場合は抽選(8月15日まで受付中)とのこと。

詳細は駐大阪韓国文化院のHP(https://www.k-culture.jp/)で。

 

(インジュ)

1984年ソウル生まれ。1990年に来日、神奈川県で育つ。延世大学校政治外交学科卒。日本の全国紙に勤務。韓日ダブルの娘の子育て中。