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人種差別に該当する不法行為が認められたのは、大きな第一歩 ~在日コリアン弁護士懲戒請求事件レポート~

人種差別に該当する不法行為が認められたのは、大きな第一歩 ~在日コリアン弁護士懲戒請求事件レポート~ 人種差別に該当する不法行為が認められたのは、大きな第一歩 ~在日コリアン弁護士懲戒請求事件レポート~

チョンソンです。

以前、2018712日に金竜介弁護士と金哲敏弁護士が損害賠償を求める訴えを起こしたことをここでご紹介しました。(前回記事はこちらこちら

詳しくはそちらの記事を見ていただきたいのですが、あるブログが発端となり、2人を含む18名(うち8名は在日コリアン)は約950名もの人物から、懲戒請求をされることになったのです。

  しかしそのブログに書かれていた懲戒請求の理由は、何の根拠もなかった。そこで金竜介弁護士と金哲敏弁護士は損害賠償請求を起こしたのですが、うち1人は201810月、金竜介弁護士に対して33万円の支払いを命じられました。そしてこの事件の控訴審判決(第一審の判決に対し不服を申し立てたため、再度裁判が行われること)が514日にあったのです。結果は、33万円から11万円の支払いと減額されていました。しかし金竜介さんはこの判決を、「一歩進んだ判断」と言います。どうしてそう思ったのでしょう? 金さんにお話を伺ってきました。

 

会見する金竜介弁護士(右)と、本多貞雅弁護士(左)

 

 「この損害賠償は人種差別に該当する不法行為が主眼。だから在日コリアンを対象にした名指しでの懲戒請求を「弁護士としての活動の萎縮」としたことは一歩進んだ判断で、この点は評価できる」(金さん)

 

 金さんは14日におこなわれた記者会見で、こう述べました。そして「弁護士として相手方から批判を受けたり、逆恨みされることはある。それは避けられない。1人の人の人権を守るために権力から狙われる。でも今回の懲戒請求は弁護士業務とは関係なく、出自でされた。これが不法行為であるかを判断してもらいたかった」と続けました。

 

 一審ではこの懲戒請求と人種差別の関係には触れられていなかったものの、控訴審判決では金さんが在日コリアン二世であること、彼を含む8名の在日コリアンを名指しで懲戒請求したことに対し、裁判長は

 

確たる根拠もなしに、弁護士としての活動を委縮させ、制約することにつながるものである。したがって、一審被告は、本件懲戒請求により一審原告が受けた精神的苦痛の損害を賠償すべきである(判決文より)

 

と言ったのです。とはいえ、賠償金額は減額されてしまいました。その理由についてはわからないとしながらも、金額には重きを置いていないと言いました。

「人種差別があったことを認めておきながらも、それによって受けた苦痛は考慮されていないと思う。しかし私はお金をもらいたくて始めたのはない。約950人から懲戒請求されたことに、恐怖を感じた。私の近くに被告がいるかもしれないことも恐怖だ。だから金額は関係なく、裁判所には人種差別を明言してもらいたかった」(同)

 

 そして被告には控訴は自由としながらも、

「あなたがた(被告側)が何を言っても裁判所には通らないことをわかってもらいたい。付和雷同で数百人から懲戒請求をやられるのは、信念を持った1人からやられるより辛い。強い意志を持って排除するなら受け止めようがあるが、付和雷同的にやったことが感じさせた恐怖感について「悪気はない」というが、悪気がない人間に石を投げられることを考えてほしい」(同)

 

と続けました。

 

 この判決が出る前日に、チョンソンは金さんにお話を伺っていました。これまで6件の裁判が終わったけれど、人種差別による懲戒請求であることに裁判所は答えていない。だからそこを正面から答えてもらいたいと、金さんは語っていました。

 

「『金竜介がやった行為に対して懲戒請求をしたのであり、人種差別ではない』というから私が何をやったのかと問うと、そこは今も答えをもらっていません。自分も金哲敏弁護士も他の弁護士も、朝鮮学校無償化問題はこれまで関わっていなかったんです。なのになぜこの8名なのか。誰も答えてくれていないんです」

 

 そんな中で控訴審で初めて、「人種差別による懲戒請求」であったことが認められたのは、とても大きなことでした。

 

 金さんは懲戒請求されたことを、恐怖と感じていました。1000人近い、おそらくヘイトデモに参加しているような人ではなく普通の社会人をやってきた人間が、署名のような感覚で在日コリアンの職と尊厳を奪う行為を、ライトにカジュアルにしてしまえる。確かにそんな状況は当事者にとっては、恐怖でしかありません。しかしこの裁判は、やらなくてはならない裁判と考えているそうです。

 

「やりたい裁判ではないけれど、やらなくてはならない裁判だと思っています。弁護士は依頼者や弱い人のために頑張るものだから、本来の弁護士業務をやりたいですよ。でもほとんどの在日コリアンは、人種差別をされても何もできない。正直怖いし呆れているところはありますが、私は弁護士だからできることがあります。だから自分がやらなくてはと思っています」

 

 ヘイトスピーチが横行するこの社会では、在日コリアンが名前と姿を出して主張すること自体、恐怖を感じる瞬間があります。しかし味方は絶対にいるし、辛かったら逃げてもいいから生きることを第一に考えて欲しいと、このブログの読者に向けて金さんは訴えました。

 

「私も1人だったらこの裁判を戦うのは難しかったけれど、たくさんの味方に恵まれました。だから誰にも味方は現れると思いますし、もし辛い状況にいて味方が現れなかったら、逃げてもいい。引っ越すのも通名を名乗るのも、生きるためには仕方がない事だと思います。大事なのは生きることで、生きていればどんな形であれ味方は現れるから、逃げてもいいから生きろと言いたいです」

 

 金さんが原告となっている裁判の第一審判決は、7月まで続く予定です。チョンソンはこれからもこの裁判のレポをしていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。

 

(チョンソン)