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インタビュー金村詩恩さん

インタビュー金村詩恩さん インタビュー金村詩恩さん

アンニョンハセヨ、インジュです。

今回のインタビューは、ブロガーで文筆家の金村詩恩(かねむら・しおん)さんです。言葉と向き合い、対話を模索する真摯な人。でもキムチとチャンジャとパンダをこよなく愛する26歳の青年でもありました。

金村さんは今月から「あんにょんブログ」のライターに加わるとのことなので、本当に楽しみです!


 

――昨年末、ブログが書籍「私のエッジから観ている風景:日本籍で、在日コリアンで」になりましたね。


 映像制作会社に勤めていた25歳の時、たまたまニュースサイトの「バズフィード」で、韓国関連のフェイクニュースを流すデマサイト運営者の記事を読みました。僕と同い年で、びっくりして。「PVを稼ぎ、広告費で儲けるためにやった」と答えていた。その日銭のために、こちらはどれだけ生活が脅かされたか。僕には甥と姪がいて、彼らがどうなるか不安だということを知らせなくちゃいけないと思いました。それで手紙として書いたのが、「拝啓デマサイトを運営している人へ」のブログ記事です。

その記事が「バズフィード」に取り上げられたことで1日で1万8千PVに。地元・埼玉の出版社「ぶなのもり」から声をかけていただいて、ブログをまとめた本が出版されました。

 


――日本国籍を取っても、「在日」という意識はなくなりませんか?


 小学生のころに家族で日本に帰化しました。当時、僕が警察官になりたいと言っていたので、職業選択の幅を広げるためでした。でも日本国籍をとったからって、明日から日本人になれるわけじゃない。

家では今もキムチやチャンジャを食べるし、1960年代に来日した祖母から韓国の歴史を聞く機会も多くありました。クリスチャンの祖母は神社参拝を拒否していて、憲兵に引っ張られそうになったその日に終戦になったそうです。おばあちゃんの話を聞くことが好きでした。日本人としての意識と言われても、よくわからないところがあります。

 

 


――高校生の時は、在日だとばれたくなかったと書いていますね。

当時は韓流ブームでしたが、同時並行で嫌韓も強かった。2ちゃんねる全盛期です。在日だとばれたらまずいと脅えていました。

大学2年生の時に受けた文化人類学の授業で教授と会い、そこからですね。自分のことを話すことの大切さを知り、このブログにつながりました。でも当時は文章より映像を薦められていました。大学4年の時に釜山に留学し、一時帰国した時、とある映画監督のセミナーに参加したことから、ドキュメンタリーを志しました。

帰国後はいろんな出会いがありました。就活する暇なんてないくらい忙しかった。自分以外の異なる「マイノリティー」に出会う機会がたくさんありました。在日同士でいるとマイノリティーでいることが当たり前ですが、例えばゲイカップルの人たちに会うと、時に自分はマジョリティーなんだとわかったりもしました。不登校でフリースクールに通う人たちの映画祭を手伝った時も、いろんなことを教えてもらいました。

 

――ブログは一人称が「私」でとても丁寧な書き方です。


 「詩恩」という名前もあって、女性だとよく間違われます(笑)インターネット上の言葉は強く聞こえるし、「僕」より「私」のほうが対等になるのかなと。もっと静かにこういうことを話したかった。在日ってかわいそうと思われるけど、そうじゃなくて、もっと日常に根ざしたところを伝えていきたいと思いました。

大学時代、いろんな人と会う中で、自分がただ「在日だ」と話すだけでなく、どう語るかを考えるようになりました。自分と違う人に対して語るときにどうすればよいのだろうと。今一番考えているのは、おじいちゃんおばあちゃんの語り継ぎをどうやっていくか。在日の知恵というのは普遍的だと思っています。ただのかわいそうな人たちではなく、彼らは一生懸命生きて、道を切り開いていった人たちだということを、世界中に伝えたい。

 

――言葉を大切にしていますね。

言葉を投げたら、次は暴力や戦争になるしかないからです。挑発的な言葉が流行っていますが、語るのが難しいからこそ、言葉を尽くして真摯にならないと。ここで踏ん張って、対話していく姿勢がないと、差別となんか向き合えないですよね。当然傷つくことも多いですけれど、でもそこに自分の可能性を持っていきたい。

 

――悩んでいる人たちに伝えたいことは

ブログを書くようになってから「私も在日って言えないんだよ」と、ツイッターでダイレクトメッセージをもらったりします。そういった時に僕が伝えたいのは、「本を読む、人に会う、切実さを忘れない」。その切実さに向かっていけば、タイミングが合えば誰かに話せる時が必ず来ると思います。本を読むことは、自分と違う世界に触れることです。人に会うのもそう。自分と違う人に怒られたりするのも良いです。

逡巡していくというか、ああでもないこうでもないとしていく作業はとても大事だと思います。その先に本当に、ああこうだったんだと思うことがあると思います。えらそうで恥ずかしいですが、でもまだまだ僕もその途中です。

 

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金村詩恩さん 

ブログはこちら→私のエッジから観ている風景

単行本のご紹介私のエッジから観ている風景: 日本籍で、在日コリアンで

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聞き手:アン・インジュ

1984年ソウル生まれ。1990年に来日、神奈川県で育つ。延世大学校政治外交学科卒。日本の全国紙に勤務中。お酒が弱くなったことが悩み。