しんどい今だからこそ読みたい、韓国の漫画作品『草』

2020年03月17日

    チョンソンです。皆さん、お元気ですか? 心や身体の調子はいかがですか? もう文字にするのも嫌なのでわざわざ書きませんが、本当に日本に住む韓国人にとってはしんどい毎日ですね。今まで生きてきて、自分のこと(失恋とか大切な人を喪うとか)以外が原因で、こんなに毎日が辛いと思ったことはなかった気がします。

 辛いなあと感じる理由の一つに、集会やシンポジウムなどが軒並み延期になっていることもあります。時節柄仕方ないのだけど、韓国から短期滞在目的で日本に来るのが困難になってしまった今、この先どうなってしまうんだろうと不安ばかりが募っています。

 そんな中で今となっては超ギリギリのタイミングの221日、『草』

http://korocolor.com/book/kusa.html

という漫画作品が日本でも出版された、キム・ジェンドリ・グムスクさんの来日イベントに行ってきました。

 この『草』は、李オクソンさんという女性が主人公です。名前を聞いたことがある人、もしかしたらいるのでは? オクソンハルモニは現在ナヌムの家に暮らす、日本軍の慰安婦被害者の一人です。

 1927年に釜山で生まれたオクソンハルモニは、家が貧しかったことから14歳で養女に出されました。学校にも行かせてもらえず働きづめの毎日でしたが、そこからさらに、蔚山の飲み屋に売られてしまいます。

 1942年、中国の延吉の慰安所に連れていかれ、「トミコ」という名前を付けられたオクソンハルモニは、終戦までの3年間、性暴力被害に遭い続けてきました。解放後は現地に置き去りにされ、中国人の男性と結婚。故郷に帰りたかったけれど、学校に行けなかった彼女は字を書くことができず、家族に消息を伝えることもできませんでした。しかし1996年にSBSが放送した『追跡!事件と人々』という番組がきっかけで一時帰国し、家族と再会します。だけど家族は、彼女を歓迎しませんでした。その後、夫を看取ってから2000年に韓国に戻り、現在はナヌムの家を訪れる人たちや世界中の人たちに、自身の経験を語り続けています。『草』はグムスクさん自身がオクソンハルモニと出会い、凄惨な半生を描くことに迷いながらも、彼女の過去と現在を描き出していく作品になっています。

名前の「ジェンドリ」は、フランス人の夫の名字。グムスクさんは、17年間フランスで生活していた(写真左)。

 グムスクさんはフランスで暮らした後、201011月に韓国に帰国。以来漫画家をしていましたが、2013年のアングレーム国際漫画祭(フランスで開催されている、世界的な漫画イベント)に向けて、慰安婦をテーマにした作品を描いてみないかと、漫画家グループから声を掛けられたそうです。その時は大邱出身の李容洙ハルモニの証言を基に、『秘密』という作品を描いています。

「(その当時)日本軍慰安婦の被害者テーマの作品はいろいろあったが、自分が読みたいものはなかった。日本に怒りを持ち憎むのは簡単だけど、怒りにとどまるのではなく、この問題は女性の問題で、彼女たちは誰の子供かという問いを投げたかった。これは階級問題でもあると思った」(グムスクさん)

 その後「自分に慰安婦問題が果たして描けるのか」と悩み続けるなかで、被害者に会って話を聞くことが大事だと思い、ナヌムの家を訪ねたそうです。最初は複数で訪ね、次に1人で行った際、以前置いていった自身の作品『コケンイの田舎話』を楽し気に読んでいたオクソンハルモニを見て、彼女の話を書くことにしたと語りました。

「できるだけ単純で簡潔な絵にこだわりました。そして性暴力を受けた話を聞くのではなく、どんな色が好きでどんな瞬間が人生の幸せかや、思い出になっている出来事などを聞きたくて会いに行きました。語るのは90歳を過ぎたの女性だけど、私は彼女の子供の頃から今までを全部見ました。その中でも暴力については、再現せずにどう描くかにこだりました。オクソンさんもこの本を手に取るのに、二度と思い出したくない場面が描かれていたら、オクソンさんへの二次加害になってしまうからです。その代わり自然を描くことで、受けた被害が伝わるようにしました」

 グムスクさんがそう語る通り、目を覆いたくなるような暴力シーンはこの本にはありません。草のざわめきや黒々とした山々、月明かりしかない夜の景色などから、苦しい心情を推し量ることができるようになっています。

 「あくまで私が読みたい作品を作った」と語るグムスクさんですが、悲惨さばかりをクローズアップするのではなく、1人の女性の人生を通して辛さや苦しさ、女性たちの連帯や優しさなどが伝わってきて、チョンソンも本当に「読めて良かった」と思える作品でした。

 韓国の優れた作品の作者にこうして会える機会は、次はいつになるのだろう……? もちろん戦時中とは全く状況が違うことは分かっているし、少なくとも明日食べるものや着るものはある。だけどしんどい今を生き抜くために、手元に置いて読み返していきたいと思っています。

 来月は明るい話題をお伝えできたらいいなと祈りつつ、ではまたアンニョン。

(チョンソン)

   

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