『オールド・ボーイ』(2003) 

2018年06月15日

『オールド・ボーイ』(2003) 

脚本・監督:パク・チャヌク
 
(原題:올드 보이、英題:Old Boy)
主演 チェ・ミンシク:オ・デス役、カン・へジョン:ミド役、
   ユ・ジテ:・イ・ウジン役

出典 : www.amazon.com

 日本の漫画『ルーズ戦記 オールドボーイ』(作:土屋ガロン、画:嶺岸信明)が原作の『オールド・ボーイ』(2003)は、第57回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリ、第37回シッチェス・カタロニア国際映画祭でグランプリを受賞した。また、本作のリメイクがスパイク・リー監督により製作され2013年に公開された。

 本文では、本作の主題について私が考えることを述べ、本作の見どころショットを紹介する。

 本作のストーリーを一言で言うとこうだ。主人公のオ・デスは何者かに誘拐され15年間もの長い期間、理由もわからずに狭い部屋に監禁される。ついに高層マンションの屋上で解放されたオ・デスは、自分を監禁した犯人を探し出し、監禁した理由を聞き出し、復讐を果たすためだけに翻弄する。

 本作の面白さの柱は「なぜ、オ・デスは15年間も監禁されたのか?」というサスペンスであり、観客もオ・デスと一緒になってその「なぜ?」が気になり、劇終盤まで飽きることなく引っ張られる。監禁されている間、オ・デスは自分の半生を振り返り、誰にどのような恨まれることをしてきたかを記憶の限りノートに書き出す。すると、本人の予想とは裏腹に、次から次へと思い当たる節が沢山出てくる。

 「やった方はすぐ忘れるが、やられた方はずっと覚えている」とよく言うが、言葉というものは時として人の人生をも狂わせてしまう凶器になりうるのだということをこの映画を観ると痛感する。そして、言った側の人間は自分が発した言葉のせいで誰かが深い傷を負ってしまっていることに気づいてもいないことが往々にしてある。

 「復讐」が主題の本作であるが、復讐への執着は絶望した人間に生きる理由を与えるほどの強い力を持つ。だが、その復讐が果たされると、そのためだけに生きてきた人間は果たしてどうなってしまうのか。その答えの一つをこの映画は教えてくれる。仕事一筋で生きてきた人間が定年後に何をして良いかわからなくなり鬱状態に陥ってしまうということがよくあると聞くが、それにも通ずるのではないか。

 さて、本作の見どころショットをいくつか紹介する。まず、何よりも一番は、主人公オ・デスを演じるチェ・ミンシクの芝居だ。あの演技は、そんじょそこらの俳優からは出てこない。

 はじめにお勧めするのはオ・デスがタコを喰らうショット。15年振りに監禁から解放された夜にオ・デスが寿司屋で「何でもいいから生きているものを食べたい」とオーダーし、出された生きているタコを手掴かみで喰らうショットは見ものである。生きているタコはそう何匹も現場に用意できるものではない(予算にもよるが)。何度か実際に生きているタコを使ってリハーサルはしているのであろうが、ぶつけ本番さながらのあの演技は面白い。

 次にお勧めするショットはおそらくこの映画で一番有名なショットだが、オ・デスと、十数人の監禁ビジネスのチンピラたちが対決するショット。

映画に於いてアクションのある危険撮影は、全てあらかじめ役者がどう動くか念入りに打ち合わせ・リハーサルしてから撮影する。このショットはチェ・ミンシクが一人で十数人のチンピラたちをなぎ倒していくのを、カットを割らずに長回しで撮影している。この長回し1ショットの尺を測ったが、なんと約2分40秒もの長尺であった。多人数のアクションだらけの喧嘩をカットを割らずにこれだけの長尺で撮るということは、目がくらむほど大変な撮影である。2分30秒まで誰一人ミスせずにアクションをこなしても、最後の最後で誰か一人がミスしたら、またゼロから撮影のやり直しである。

メイキング映像を見たが、やはり撮影日よりだいぶ前から、何度も何度もこのショット撮影のために段取り・練習を繰り返していた。ちなみに、スパイク・リー監督のリメイク版でもこの長回しショットがあったが、私個人の見解ではオリジナル版の圧勝である。

 本作でいくつかある美しいbird eyeショット(キャメラを対象の真上に置き、俯瞰で撮影)にも注目してほしい。例えば、冒頭オ・デスが雨の中誘拐される時のbird eyeショット。例えば、オ・デスが15年振りに監禁から解放される時のbird eyeショット。例えば、オ・デスとミドが仰向けで寝転がる時のbird eyeショット。例えば、ラストの一面雪の中のbird eyeショット。重要な要所要所でこれらのbird eyeショットは計算されて挿入されており、そのどれもが絵画のように美しい。

 では、パク・チャヌク監督の名を世界に知らしめた傑作『オールド・ボーイ』を、とくとご堪能あれ!


                         

崔 正憲  (ちぇ じょんほん)

札幌出身の在日三世。

2005年 学習院大学経済学部経営学科 卒業
2015年 日本映画大学脚本・演出コース 卒業(一期生)

監督作品 『熱』(2015) 第9回 TOHOシネマズ学生映画祭 準グランプリ、第19回 水戸短編映像祭 準グランプリ 『DUEL』(2013) 『ナニジン』(2013)

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